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仙台簡易裁判所 昭和37年(ハ)186号 判決 1969年2月24日

原告 岡明

右訴訟代理人弁護士 甲野太郎

被告 板橋義見

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、仙台市荒巻一本杉北三三の一山林一町九反二畝二歩の内北端に所在する仮設小屋約三坪五合を収去してその所在の土地を明渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、被告は、請求棄却の判決を求めた。

原告訴訟代理人は、請求原因として、

一、請求の趣旨掲記の山林は原告の所有である。しかるに、被告は何らの権原なくして右原告所有山林の北部の一部を占拠して約三坪半の仮小屋を設置している。

二、よって、原告は被告に対し、右不法占拠は刑法にも触れるものにつき、直ちに収去すべきことを注意したが、右仮小屋を収去しないので、請求の趣旨記載の判決を求める。

と述べ、なお、

(一)、原告所有の仙台市荒巻一本杉北三三原野約一町歩と国道との中間に、同字一〇番五原野三メートル平方を訴外庄子長作が所有していた。長作は、終戦後まで、右土地に田を作っていたが、右の田は、原告所有の右土地と国道との間にはさまれた谷間の、巾約三尺、長さ約二間程の細長い田で、その田の巾は、道路側から原野側に一とまたぎで越えられるほどの狭い田であった。

右の事実は、七北田方面に往復する大衆が往来の都度見て知っているところで、何人も争うものがない。

(二)、しかるに、昭和三六年頃、原告は、右の田を埋めて国道と同じ高さとし、地ならしをして間口約二・六間奥行二間の仮小屋を建ててあることを発見した。右仮小屋は、約一間余、原告所有土地に侵入して建築されているものである。なお、境界線である田の畔も埋められていた。このように、原告の知らぬ間に原告所有土地が侵入占有された。

(三)、原告は調査の結果、右の田を買求めたのも仮小屋を建てたのも被告であることを知り、被告に対し、強く右土地侵奪を止めるように申入れたが応ぜられないので、本訴に及んだのである。

と附述した。

被告は、答弁として、原告主張の請求原因のうち、仙台市荒巻一本杉北三三番の一の土地が原告の所有であることは認めるが、その余は否認する。被告は、右土地に隣接する同所一〇番の五原野三歩(実測一五坪)に建物を建築所有しているものである。と述べた。

立証として、原告訴訟代理人は甲第一号証を提出し、被告はその成立を認めた。

理由

一、仙台市荒巻一本杉北三三番の一山林一町九反二畝二歩が原告の所有であることは当事者間に争いがない。しかし、被告がその土地の一部を占拠して建物を建てていることを認めるべき証拠はない。よって、原告の本訴請求は理由がない。

二、記録によって検討するに、

(一)、本件は、昭和三七年四月一七日訴が提起されて以来、昭和四四年二月一七日弁論を終結するまで、二六回の口頭弁論期日と二回の証拠調期日が開かれた。ほかに、五回の口頭弁論期日と一回の証拠調期日が指定されたが、いずれも、原告訴訟代理人の申立によって変更された。なお、昭和四一年六月一日から同四二年一一月一三日まで七回の調停期日が開かれたが不成立に終っている。

(二)、右二六回の口頭弁論期日のうち、実質的に弁論の行なわれたのは、第一回(訴状陳述、答弁)、第七回(原告の検証及び鑑定の申出、裁判所これを採用の決定)、第九回(裁判官の更迭による弁論更新、甲第一号証の提出認否)、第一八回(附調停)、第二二回(原告準備書面陳述、同証人一名申出、裁判所これを採用の決定)、第二六回(原告不出頭、裁判官更迭につき弁論更新、未実施の証拠決定取消、結審)の六回だけで、その他の期日は、うち一回被告の申立による延期があったほか、全部、原告訴訟代理人の申立により延期されている。その申立の理由は、「示談交渉のため」が四回、「原告訴訟代理人の病気」が一回、その他は、原告訴訟代理人の「急用」、「差支」、または「不都合」となっており、なかには、理由を附してない申立もある。これら延期の申立は期日に接迫してなされ、原告不出頭のまま開廷された上延期になっているものが多い。なお、第一二回(原告不出頭、被告出頭)、第一三回(当事者双方不出頭)及び第一四回(原告出頭、被告不出頭)の各期日には、鑑定人(原告申請)が出頭したが期日は延期になり、尋問はなされず、第二三回(当事者双方不出頭)と第二四回(原告不出頭、被告出頭)には証人(原告申請)が出頭したが、期日は延期になり、尋問はなされなかった。

(三)、本件で指定された三回の証拠調期日は、いずれも、前記原告申出の検証及び鑑定人尋問のための期日であるが、第一回期日は、検証現場で(鑑定人も出頭していた。)、原告訴訟代理人の、「現地調査のため」との理由による申立によって延期され、第二回期日は、原告訴訟代理人の「立証その他の準備中」との理由による期日外の申立によって変更され、第三回期日は、検証現場で(鑑定人も出頭していた。)、原告訴訟代理人の「隣地国道との境を指示できないので、その立証準備のため、証拠調は延期して口頭弁論期日を指定されたい。」との申立によって延期された。

(四)、被告は、以上の各期日のうち、口頭弁論期日に一七回、証拠調期日に二回、調停期日に五回、それぞれ出頭している。原告本人は調停期日に二回出頭したほか出頭したことはなく、原告訴訟代理人は口頭弁論期日に一五回、証拠調期日に二回、調停期日に三回出頭したほかは各期日に出頭しなかった。

(五)、前掲事実摘示の通り、原告のこれまでの主張は、肝心の、明渡を求める土地の範囲すらも明らかにされておらず、収去を求める仮小屋の大きさについても前後相異る主張をしているのであって、なお整備を要する。証拠としては、甲第一号証(字一本杉北一〇番の五の土地登記簿謄本)を提出してその取調べのあったほか、原告が、現場の検証、鑑定、証人一名を申出で、採用になったが、それらが取調未了である経過は前叙の通りである。ほかに、原告の申出によって、仙台法務局及び東北地方建設局から書類図面の取寄せが行なわれたが、いずれも昭和三八年一一月二七日(第九回口頭弁論期日の前)までに送付を受けているのに、それらのものからの援用などはまだ何もなされていない。

三、以上のような原告の本訴における態度に徴すれば、原告の本件に関する事実や証拠に関する準備がととのって、訴訟の進行が軌道に乗るのは何時のことか全く見当がつかないし、原告に、それを真剣にやる意思があるかどうかも疑わざるを得ない。被告は今後どれだけの年月の間何回期日に出頭して応訴しなければならないか、証人や鑑定人も、今後何回出頭すれば尋問をしてもらえるのか、見当がつかずに当惑していることは察するに余りがある。このような訴訟の著しい遅延や訴訟関係人の甚大な迷惑や損害を顧みないかの如き原告の態度は、迅速裁判の要請と訴訟における信義誠実の原則に反するものといわざるを得ない。そこで、当裁判所は、第二六回口頭弁論期日(原告訴訟代理人不出頭)において、原告申出の証拠中取調未了のものの採用決定を取消して結審したのである。

四、よって、訴訟費用につき、民事訴訟法第八九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 鈴木禎次郎)

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